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2014/10/31

(随筆)『法の硬直性』

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法の硬直性

結城啓二郎

 

法律というものが、ものすごく「頑固なもの」である点を指摘したいと思います。

日本は法治国家なわけですから、支配者が自分たちの方針を国民に押し付けようとする場合、新しい法律を作るとか、既に存在する法律の解釈を拡大しようとかするわけですが、「いったん出来てしまった法律はなかなか変えられない」点にこそ、立法の恐ろしい点があるのではないかと指摘したいのです。

無実のソクラテスが「悪法もまた法なり」と言って従容(しょうよう)と死に赴いたという話が賞賛されたり、「朝令暮改は良くない」と言われたり、私たちは「法の安定性による社会秩序の維持」という刷り込みに慣らされてきたわけですが、それこそ『論語』の(あやま)ちては、改むるに(はばか)ることなかれ」の通り、悪法はできるだけ速やかに撤回されるに越したことはありません そうでなければ、国民はいつまでも苦しみ続けるからです。

 消費税アップの件を例に取ってみましょう。 昨年、政府が消費税を5%から8%に引き上げる法律を制定しようとした時、ある大手新聞はアメリカの有名大学の教授の意見を大きく掲載しました。

その教授の言い分は、「消費税が上がるとなると、その前に買っておこうという駆け込み需要が発生する。 すると景気が一時的に回復し、賃金も上がるから、結局は国民のためになる。また不況になったら、また消費税を上げれば良い」というものでした。

これを読んで私は「あーあ。 目先を変えて二回目かよ。 仏の顔も三度と言うぜ」と苦笑したわけですが、それと言うのも、消費税が3%から5%に上がる前にも全く同じ屁理屈がテレビや新聞で経済評論家と称する人たちによって喧伝されていたのを覚えていたからです。(ちょっとネットで調べれば、すぐにいっぱい出て来ます)

やれやれ、まったく何をふざけたこと言ってんだか。

消費税アップの是非を論ずる前に、この教授や評論家諸氏はまったくモノが分かっていないと言わねばなりません。 それは法律というものの恐ろしいほどの硬直性です。  つまり、いったん法律が成立したら、未来永劫とまでは言わないにしても、その法律が改正される現実性はきわめて低いという事実です。

たとえば、監獄法というのがあります。 これは明治時代にできた、つまり旧憲法のもとで成立した法律でありますが、それだけに囚人の人権に対する配慮など無きに等しい法律ですが、百年以上たった今日でも立派に機能しているわけです。 もし、この監獄法が改正されていたとしたら、名古屋刑務所の革手錠事件も起こらなかったことでしょうね。

ついでにもうひとつ。 私はその法律の名前は知りませんが、トンデモナイのが現存しているそうです。 それは、金、銀、銅山にまつわる法律です。 やはり明治時代にできたのですが、「鉱山を発見し、採掘許可を得んとする者および団体は、その鉱山の場所を和紙に墨で書いた図面を申請書に添付することを要す」というものであります。

いいですか、「和紙に墨で書いた図面」ですよ! 当然、手書きになりますし、毛筆で書くことになりますよね。このワープロの時代に、こんなことってあるの? という気持になりますが、でも日本は法治国家ですから、たとえば住友金属なんかの担当者さんは、そんな書類をわざわざ作っているわけです(笑)。

「消費税アップ」に戻りましょう。 確かに「消費税アップ前の駈け込み需要」は、ある程度期待できるでしょう。 とくにマンション購入などでしたら、百万円単位の差が出るわけですから。

 しかし、いったんこの「法律が保証する安定した財源」(ヤクザだってベンツを買うなら消費税を払わねばなりません)を確保した官僚どもが、この既得権益を手放すわけがありません。 なぜって、自分たちが立案し、政治家を利用して実行させた政策の過ち(それは必ず、不況など経済的なかたちで現れます)のツケを始末してくれるからであります。

たとえば、浪費癖のあるオヤジが「今月はちょっと遊びすぎたな。 でも、経理(消費者)に言えばその分、手当てとして出してもらえるんだから」というような話ですよね。 冗談じゃありません。 その前に、「遊びすぎ」の理由を反省すべきだというのが、まともな神経というものでしょう。

経済評論家とかいう人たちが、どんな「おためごかし」をほざいても、実際には、みんなが、ますます財布のひもを締めるだけでしょう。 この理由を「消費者心理」の観点から説明したいと思います。

 私を含めて、世の中の多くの人は数学に弱いのだと思います。 なぜかと言うと、6,100円と言われるより5,999円と言われる方が、実際の差額101円の何倍も大きく感じられるからです。 そんなことはない、お前が馬鹿なだけだとおっしゃるなら、5,999円式の値付けがはびこっている、それ以外の理由を教えてほしいものです。

この心理的な影響は、今回の「消費税10%」で、マスコミなどが予測していない大きなインパクトを与えるだろうと私は心配しています。

つまり、10%というのは「わかりやす過ぎる」のです。  「この品物は990円で、消費税が8%だから、えーと」というような世界ではなく、「あ、それって千円なのね。 じゃ、千百円払うことになるのね」という具合ですから、いくら商店が「税込み価格」とかでごまかそうとしても、消費者の財布のひもが締まるのは言うまでもないでしょう。

その後に待っているのは不景気とデフレです。 そうでなくても(公務員を除く)サラリーマンの給与が二十年ものあいだ連続して減少しているわけですから、踏んだり蹴ったりです。 治安も悪化するでしょうし、どんな世相になるのか、ちょっと恐ろしい気さえしてきます。

今回の消費税アップ問題に限らず、法治国家における「法の硬直性」に警戒心を持ちたいものだとしみじみ思うこの頃です。 


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